「親が残した遺言に納得できない…」「介護してきたのに、財産がゼロ!?」
そんな時に使えるのが【遺留分侵害額請求】という法的手段です。
遺留分(いりゅうぶん)の請求手続きは、「遺留分侵害額請求」として、法定相続人が遺言などによって本来の最低限の取り分を侵害された場合に使える法的手段です。
この記事では、実際のトラブル事例や請求方法、必要な書類のテンプレート(Word/Excel形式)まで、やさしく丁寧に解説します。
遺留分とは?

被相続人の遺言によって財産をもらえない、または少なすぎる場合でも、一部の相続人(配偶者・子・親)は法律上、最低限の取り分(遺留分)を確保できます。
遺留分侵害額請求ができる人
- 法定相続人のうち、以下の人が対象です:
対象者 | 請求できる? |
---|---|
配偶者 | ◯ |
子ども(孫は代襲相続時) | ◯ |
親(父母など) | ◯ |
兄弟姉妹 | ×(遺留分なし) |
請求できる内容
- 現物(不動産など)の返還ではなく、金銭での支払いを請求できます(これが2019年改正民法のポイント)。
💬 実際のトラブル事例(3選)
◆ 事例1:再婚相手にすべて相続 → 子どもが遺留分請求
- 被相続人:男性(70代、会社経営者)
- 相続関係:前妻との子(2人)+後妻
- 遺言:「すべてを再婚相手に渡す」と指定
結果:
- 子ども2人が遺留分侵害額請求を実施。
- 遺産総額約1億円 → 子2人で2000万円(各1000万円)を請求。
- 協議では折り合わず、家庭裁判所へ調停申立 → 分割払いで合意成立。
感想(子ども側):「争うつもりはなかったが、あまりに一方的な内容だったのでやむを得なかった。遺留分制度があってよかった」
◆ 事例2:介護していた長女に全財産 → 他の兄弟が請求
- 被相続人:母(85歳、老後は長女と同居)
- 相続関係:長女・次女・長男の3人きょうだい
- 遺言:「介護をしてくれた長女に全財産を与える」
結果:
- 長男と次女が遺留分請求(遺産3000万円 → 2人で750万円請求)
- 調停は不成立 → 地裁で訴訟へ
- 裁判で遺留分支払い命令 → 長女が支払うことに
感想(長女側):「介護してきたのに、なんでこんなことに…正直、悔しい。でも法的には仕方ない」
◆ 事例3:父の遺言で全額NPOに寄付 → 相続人が請求
- 被相続人:父(80代、資産家)
- 相続関係:配偶者なし、子1人(長男)
- 遺言:「遺産全額を〇〇NPOに寄付」
結果:
- 長男が遺留分請求(1億円中5000万円相当の遺留分)
- NPOが任意に応じなかったため、調停 → 解決金として4000万円支払いで和解
感想(長男側):「父の信念は尊重したいけれど、自分にも生活がある。半分だけでも返してもらえてよかった」
⏰ 時効に注意!
- 遺留分侵害を知った日から1年以内
- または、相続開始(被相続人の死亡)から10年以内に請求しなければなりません。
- ※これを過ぎると、請求権は消滅します!
遺留分侵害額請求のメリット・デメリット
メリット | 内容 |
---|---|
✅ 最低限の取り分を守れる | 法定相続人として、遺言で一切もらえなくても、一定の相続財産を金銭で請求できる。 |
✅ 不公平な遺言に対抗できる | 特定の相続人に全財産が渡るような遺言でも、正当な権利を主張できる。 |
✅ 金銭請求なので現物争いが起きにくい | 2019年の法改正により、現物返還ではなく金銭請求に一本化されたため、実務がスムーズ。 |
✅ 交渉の武器になる | 相手が遺産を独占しようとしていても、請求を通じて話し合いに持ち込める。 |
✅ 時効までに行動すれば法的に有利 | 法律で認められた権利のため、感情に頼らず理性的に主張できる。 |
デメリット | 内容 |
---|---|
❌ 親族間トラブルの火種になる | 特に「もらいすぎた側」から強い反発を受けることがある。 |
❌ 請求期限が短い | 「侵害を知った時から1年」「相続開始から10年」で時効になる。 |
❌ 相手に支払い能力がないと回収できない | 金銭請求が通っても、相手に資産がなければ支払われない可能性がある。 |
❌ 調停・訴訟になると負担が大きい | 裁判所でのやりとり、弁護士費用、精神的な疲労などが伴う。 |
❌ 証拠と書類の準備が面倒 | 財産目録や遺言書の入手、相続関係の証明などが必要になる。 |
請求すべきかどうか?判断ポイントチェックリスト
判断項目 | 考慮すべき内容 |
---|---|
✅ 遺産の金額は大きいか? | 数十万円〜数百万円なら話し合いで済ませる余地も。 |
✅ 他の相続人と今後も関係を保ちたいか? | 家族関係を維持したいなら慎重に。 |
✅ 明らかに不公平な分配か? | 介護などを一方的にしたのに相続ゼロなどは強く主張しうる。 |
✅ 相手に支払い能力はあるか? | 請求しても支払えないなら現実的効果が薄い。 |
✅ 精神的・時間的に余裕があるか? | 長期戦も見据えた覚悟が必要。 |
✅ 他に協議・調停で解決できる余地はあるか? | いきなり裁判ではなく話し合いの余地も検討する。 |
観点 | ポイント |
---|---|
法的効果 | 正当な請求権。無効ではない遺言でも制限可能。 |
感情面の影響 | 家族間の関係悪化リスクが高い。 |
金銭面の確保 | 支払い能力のある相手なら効果的。 |
手続きの負担 | 調停・訴訟になれば労力と時間が必要。 |
以下より、入力欄付きの遺留分自動計算Excelシートをダウンロードできます。
遺留分請求は「正義」かもしれない、でも…
法律上、遺留分は確実に保障された権利です。
しかしそれを「行使するか否か」は、人生や人間関係、そして感情も絡む極めてパーソナルな判断でもあります。
特に相手が兄弟姉妹や再婚相手などである場合、請求の仕方ひとつで、その後の関係が決定的に壊れることもあります。
「権利」と「関係性」を天秤にかけて冷静に
遺留分請求は、自分と家族の人生に直結する選択です。
請求すべきかどうかに「正解」はありません。重要なのは、
- 自分の感情ではなく、
- 現実的な損得と、
- 家族との今後の関係を見据えて
冷静に判断することです。
そしてもし、どう判断してよいか迷った場合は、一人で抱えずに専門家に相談することをおすすめします。
📋 請求手続きの流れ(4ステップ)
手続き項目 | 内容 |
---|---|
請求方法 | 内容証明で通知、調停や訴訟も可能 |
請求対象 | 金銭での請求(遺産そのものではない) |
対象者 | 配偶者・子・親のみ(兄弟姉妹は不可) |
時効 | 知ってから1年、または相続開始から10年 |
【ステップ1】内容証明郵便による請求
- まずは相手(遺産を多くもらった相続人や受遺者)に「遺留分侵害額請求通知」を出します。
- 内容証明郵便で送るのが一般的(証拠として残すため)。
【ステップ2】協議・交渉
- 相手が任意に支払いに応じれば、協議で解決。
- 金額や支払方法などで合意書を作成。
【ステップ3】調停申立(家庭裁判所)
- 話し合いで折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる。
- 地方裁判所ではなく、家庭裁判所が管轄。
【ステップ4】裁判(審判・訴訟)
- 調停が不成立の場合、審判や訴訟へ移行。
- 最終的には裁判所が金額や支払い方法を決定。
📝 必要書類例
- 被相続人の戸籍謄本(死亡の事実と親族関係の証明)
- 自分の戸籍(相続人であることの証明)
- 遺言書の写し
- 財産目録(評価額の根拠)
- 内容証明郵便の写し(交渉時)
実際に使える「遺留分侵害額請求」書類一式セット(Word形式)
書類名 | 用途・備考 |
---|---|
① 遺留分侵害額請求通知書(内容証明用) | 相手に正式な請求を通知するための文書 |
② 財産目録テンプレート | 財産の種類・金額を整理して把握するための表 |
③ 戸籍関係チェックリスト | 相続人であることを証明する書類の準備リスト |
④ 家庭裁判所「調停申立書」 | 話し合いがつかない場合に家庭裁判所へ提出 |
⑤ 遺留分計算シート(Excel) | 相続人ごとの取り分や請求額を自動で計算できる表 |
このテンプレートは、相手方に遺留分侵害の請求を通知するために使用できます。必要事項(氏名・金額・振込先など)を入力してご活用ください。
このテンプレートには、不動産・預貯金・有価証券・動産・債務などの分類ごとの記載欄があり、評価額や備考を記入できる構成になっています。
このリストには、遺留分侵害額請求に必要となる戸籍関連の書類項目を網羅しています。必要に応じて追記・調整してお使いください。
この書式は、家庭裁判所に提出する際の基本的な構成に沿って作成してあります。
必要な情報(氏名・住所・日付など)を入力のうえ、提出先の家庭裁判所に応じて調整してください。
このテンプレートには以下が含まれます:
- 各相続人の法定相続分と遺留分の割合
- 遺産総額を入力することで、自動的に遺留分額を計算
- 実際の取得額との差から「侵害額」を算出
※Excelで数式を調整すれば、ご家族の相続人数や構成に合わせて拡張できます。
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