「うちは仲がいいから相続で揉めることはない」と思っていませんか?しかし、相続をきっかけに兄弟の関係が壊れてしまうケースは少なくありません。
たとえば、長男だけに財産を多く残したことで次男が不満を抱いたり、遺言書がなかったために誰が何を相続するかでもめてしまったりと、予期せぬトラブルは意外と身近です。
実際に、相続を巡って法廷で争う「遺産分割調停」は年々増加傾向にあります。特に「親が何も決めていなかった」「話し合いの機会がなかった」ことが、大きな原因として挙げられています。だからこそ、家族の将来を見据えた“準備”が大切になるのです。
遺言と遺留分の基本を正しく理解しよう
相続トラブルを防ぐには、「遺言書」と「遺留分」の2つを正しく理解することが欠かせません。
遺言書とは、誰にどの財産を残すかを自由に決めるための意思表示。
一方で遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取れる取り分のこと。
つまり、どんなに遺言で「全財産を長男に渡す」と書いても、他の相続人が遺留分を請求すれば、取り戻すことができる仕組みなのです。
このように、遺言だけでは完結せず、遺留分という“法律で守られた取り分”とのバランスがとても重要です。
たとえば「次男には会社を継いでもらったから相続はゼロにしたい」と考えても、それだけでは不公平感を生んでしまう可能性があります。円満な相続には、この両者の調和がカギになります。
1.遺言書の基本と正しい作成方法

遺言書が必要な理由とは?
遺言書は「家族への最後のメッセージ」であると同時に、「相続トラブルを防ぐ法的手段」でもあります。
たとえば、財産の大半を長男に譲りたいと考えていたとしても、遺言書がなければ法定相続分に従って均等に分けられる可能性があります。これは、親の意志とは異なる結果を招いてしまうこともあります。
さらに、口頭で「財産はお前にやる」と言っていたとしても、それは法的効力を持ちません。実際に、遺言書がなかったことで不動産や預金の分配でもめ、関係が悪化した兄弟が縁を切ってしまったという例も少なくありません。
遺言書があれば、残された家族は「お父さんの気持ちはこれだったんだ」と納得しやすく、気持ちの整理もしやすくなります。
法的に有効な遺言書の種類と書き方
遺言書にはいくつか種類がありますが、家庭で書ける代表的な形式は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。
- 自筆証書遺言は、すべて本人の手書きで作成する遺言書です。費用がかからず手軽ですが、書き方を誤ると無効になるリスクがあります。最近では、法務局で保管する制度も始まり、少しずつ利用が増えています。
- 公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、形式のミスがなく、最も安全で確実です。例えば「不動産は長男に、預貯金は長女に」といった複雑な内容も、専門家のアドバイスを受けながら整理できます。
たとえば、ある家庭では父が公正証書遺言を残していたため、兄弟で一切揉めることなく相続がスムーズに完了しました。こうした事例からも、正しい形式で作成することの大切さがわかります。

トラブルにならないための注意点
遺言書を作成する際、最も大切なのは「わかりやすさ」と「公平感」です。特定の相続人に大きく偏った内容にすると、不満を持った他の家族が遺留分を請求するなど、結果的に争いの火種になってしまう可能性があります。
また、財産の分け方だけでなく、「なぜそのように分けたのか」という理由を添えることで、家族に納得してもらいやすくなります。たとえば「長男は介護をしてくれたので多めに」「次女には生前贈与で支援していたため控えめに」など、思いを込めたメッセージが添えられていれば、感情的な対立は避けやすくなります。
さらに、遺言書の内容を誰にも伝えず亡くなると、家族が「本当に本人が書いたのか?」と疑念を持つこともあります。信頼できる家族や専門家にあらかじめ伝えておくことも、円満な相続への一歩です。

2.遺留分制度の仕組みと最新動向
遺留分とは?誰にどれだけの権利があるのか
遺留分とは、法律で守られている「最低限の相続分」のことです。たとえば、親が「全財産を長男に」と遺言で指定したとしても、次男や長女が「遺留分侵害がある」と主張すれば、一定の割合を取り戻すことができます。
では、誰が遺留分を持っているのでしょうか?対象となるのは、配偶者・子ども・直系尊属(親など)です。兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。割合としては、たとえば子どもが2人いる場合、それぞれの法定相続分の半分が遺留分となります。つまり、法定で1/2ずつの子どもには、それぞれ1/4が遺留分として保証されるわけです。
たとえば、長男にすべて相続させる内容の遺言があった場合でも、次男が遺留分(1/4)を主張すれば、その分は金銭などで取り戻すことが可能です。このように、遺言で自由に分けられる財産と、法律で守られた部分(遺留分)のバランスがとても重要です。
2019年改正後の遺留分侵害額請求のポイント
2019年の民法改正により、遺留分の権利を主張する方法が変わりました。以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、現物(たとえば不動産の一部など)を取り戻すこともできましたが、改正後は「金銭による請求」に一本化されました。
この改正によって、たとえば長男が実家の土地と家を相続した場合でも、次男が「自分の遺留分にあたる分の現金を払ってほしい」と請求できるようになり、家や土地そのものを分割する必要がなくなりました。これにより、不動産の共有を避けやすくなり、相続後のトラブルも軽減されるようになっています。
注意点としては、この「遺留分侵害額請求」には時効があります。相続が発生したこと、もしくは遺留分が侵害されていると知った日から1年以内に請求しなければなりません。期限を過ぎてしまうと、取り戻せるはずの権利が失われてしまいます。

よくある誤解と対応策
遺留分に関しては、よくある誤解がいくつかあります。
たとえば「遺言書があればすべて思い通りに分けられる」「兄弟には遺留分がある」といったものです。実際には、遺留分は兄弟には認められておらず、また遺言があっても完全には自由に分けられないのが現実です。
さらに、家族間で「うちは争わないから遺留分なんて関係ない」と安心してしまうのも危険です。
相続が発生した途端に金銭問題が表面化し、「今まで我慢してきた分、主張したい」と思う相続人が出てくるケースは珍しくありません。
対策としては、遺言書を作成する段階で「遺留分を侵害していないか」を確認し、不公平感を減らすことが大切です。また、可能であれば家族に遺言の内容を伝えておく、あるいは手紙などで自分の想いを残しておくと、トラブルを未然に防ぐ効果があります。
3.兄弟トラブルを避けるための実践的対策
「遺言+遺留分」両立のための設計例
遺言と遺留分をうまく組み合わせて設計することが、相続トラブルの回避には欠かせません。たとえば、長男に家業を継がせたい一方で、次男にも最低限の取り分を残しておきたい場合、遺留分を考慮したうえで具体的な金額や資産を遺言に明記することが重要です。
ある家庭では、父が「家業は長男に任せたいが、次男には現金で500万円を渡す」と遺言に明記し、公正証書で作成しました。この金額は次男の遺留分に相当するため、法的にも問題なく、双方が納得できる相続が実現しました。
ポイントは、偏りすぎず、それぞれの立場を尊重すること。「家を継ぐ人」「介護をした人」「長年疎遠だった人」など、家族の事情はさまざまですが、遺言の中でそれらに言及し、遺留分にも配慮した設計にすることで、争いは格段に減らせます。

生前対策でできるコミュニケーションと記録の工夫

「亡くなった後に話し合えばいい」と考える人も多いですが、それでは遅いこともあります。生前に家族で話し合いの場を設けておくことが、何よりのトラブル防止策です。
たとえば、親が元気なうちに「家は長男に、預金は均等に分けたいと考えている」と本人の言葉で子どもたちに伝えるだけでも、大きな納得感を生みます。話しにくい場合は、手紙やエンディングノートを活用して思いを残すのも一つの手です。
また、認知症などにより意思能力が低下する前に、資産や意向を記録に残しておくことも大切です。メモや会話の録音ではなく、可能であれば「公正証書遺言」や「任意後見契約」など、法的な裏付けがある記録を整えておくと安心です。
専門家に依頼すべきケースとその選び方
相続は法律や税金が絡む複雑な問題です。「自分で調べればなんとかなる」と思っていても、抜けや誤解が後々大きなトラブルにつながることもあります。次のようなケースでは、専門家への相談を強くおすすめします。
- 相続人の人数が多く、関係性が複雑な場合
- 不動産や自社株など、分けにくい資産がある場合
- すでに家族間にわだかまりがある場合
- 海外在住の相続人がいる場合
依頼先としては、遺言作成なら司法書士や弁護士、税金の相談は税理士、不動産の名義変更は行政書士など、専門分野によって選ぶことが大切です。最近では、相続全般をワンストップで対応してくれる「相続専門の士業事務所」も増えており、複数の相談を一か所で済ませることができます。
また、相談の際には、「どこまでやってくれるのか」「料金体系は明確か」「話しやすい雰囲気か」といった点も確認するとよいでしょう。家族の未来を託す相手だからこそ、信頼関係の築ける専門家を選ぶことが、円満な相続への第一歩です。
まとめ
相続は、単なる「お金の問題」ではなく、家族のこれまでとこれからに関わるとてもデリケートな問題です。特に兄弟間でのトラブルは、関係を長く引きずる原因にもなりかねません。
そのためには、「遺言+遺留分」という視点をもとに、誰が見ても納得できる形で相続を設計しておくことが重要です。ただ遺言書を書くだけでなく、法律上の権利(遺留分)にもきちんと配慮することで、トラブルの芽を事前に摘むことができます。
また、生前の話し合いや想いを伝える工夫、そして専門家のサポートをうまく活用することも、円満な相続のためのカギになります。後悔しないためには、元気なうちから一歩踏み出す勇気が必要です。
「うちにはまだ早い」と思っている今こそが、実は最も取り組むべきタイミングかもしれません。未来の家族のために、今できる準備から始めてみましょう。
コメント